院長ブログ 2022.02.11
ロコモティブシンドロームの普及をめざして
「身体は日々少しづつ労働すべし。久しく安座すべからず。毎日飯後に必ず庭園の中数百歩しずかに歩行すべし。雨中には室屋の内を幾度も徐行すべし。比の如く、日々朝夕運動すれば鍼・灸を用ひずして、飲食、気血の滞りなくして病なし。鍼灸をして熱痛甚しき身の苦しみをこらえんより、かくの如くせば痛なくして安楽なるべし」
上記は今から三百年前、江戸時代の医学者・儒学者である貝原益軒により著された(養生訓)に記されている。
その意味する所は、よく体を動かし、仕事に精を出しなさい。
身体を休めすぎるのはいけない。食事后にもあまり休まず歩くのがよい。食后三十分以内に数百歩歩くのがよい。
そうすれば、「気」が体中をめぐり「病気」にならず「元気」になりますよと。
時移り事去り、現代の日本は、超高齢化社会に突入しようとしております。
脚腰の疼痛、運動器障害等の運動器疾患は我々の日常生活動作や生活の質を損なうことになり、その結果として多くの生活習慣病が発症し、その治療、介護に費やす甚大なコストは世界に誇る医療介護保険制度の維持を困難にし、日本社会全体を脅かしかねない大問題になりつつあります。
その対策として2007年から「健康長寿元気で素敵な明日のために!」というすろーがんのもと国家的プロジェクトとして、国民の運動器疾患予防の目的でロコモティブシンドローム(ロコモ運動)の発展普及に社会法人日本整形外科学会を中心に取り組んでいます。
その実際は、早期にロコモティブシンドロームを発見しスクワット、開眼片脚立ち、ウォーキングという簡単な筋トレを毎日続ける事で下半身の筋力、バランス感覚を向上させ転倒予防ひいては寝たきり状態への道を回避するための啓蒙活動をすることです。
さらに最近の新しい知見として、骨格筋は身体を支え動かすための運動器官だけではなく、甲状腺や内分泌腺、副腎と同じく「マイカオン」というホルモンを分泌する巨大な内分泌器官であるとの研究が進んでいます。
判明しているだけで「SPARC」「IL-6」「FGF-21」「アディポネクチン」「アイシン」「IGF-1」というホルモンが存在し、その作用は各々大腸ガン細胞を自殺させる働きをする作用、肥満や糖尿病を抑える作用、脂肪肝を改善する作用、動脈硬化を防ぐ効能、ストレスやうつ病認知症を改善する作用と、まるで夢のような美容と健康に効果のあるホルモンを分泌しているようです。
筋肉が収縮する事で生産されるこのホルモン群は、年齢にかかわらず分泌されますが、その前提条件として一定の筋肉量を保つ必要があります。そこでロコモ体操を毎日実行すれば、それが筋肉から分泌され続け、「健康長寿で素敵な明日」が約束される訳です。
この事実はとりも直さず三百年以上前に、貝原益軒先生が「養生訓」の中で説いた「毎食后数百歩歩行すべし」に相通ずるものがあり、彼の教えが現代医学によって裏づけされたといってよいのではないかと思われます。
最後に、歩くことは様々な病気予防に役立ちますが、その目安を参考として付記致します。